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第三巻 第九篇 隠神の活動 <第三十五章 宝の埋換 (135)>
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2007/10/29(Mon)
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第九篇 隠神の活動
<第三五章 宝の埋換(うめかへ) (一三五)> 大道別(おほみちわけ)は道彦(みちひこ)と改名し、南高山(なんかうざん)の城内に長くとどまり、大島別(おほしまわけ)夫妻の非常なる信任を受け、南高山の八島姫(やしまひめ)を娶(めあ)はせて、わが身の後継者たらしめむとし、大島別みづから道彦に向つてその旨をうち明し、しきりに勧めて止(や)まざりにける。 また八島姫は生命(いのち)の恩人なる上、道彦の英傑なるに心底より心をよせ、ぜひ道彦の妻たらむことを祈願しつつありける。道彦は親子の日々(にちにち)の親切にほだされて、これを素気(すげ)なく辞退するに苦しみゐたりける。 あるとき大島姫は、身体(しんたい)にはかに震動しはじめ、両手を組みしまま上下左右に振りまはし、城内くまなく駆けめぐり、これを静止すること困難をきはめたり。大島別は大いにこれを憂慮し、地の高天原(ちのたかあまはら)にむかつて、国治立命(くにはるたちのみこと)の救助を祈願せり。道彦はただちに姫の狂暴を取押へむとして後を追ひ、表の階段の上にて姫とともに格闘をはじめける。 その刹那、道彦は階段より顚落(てんらく)して頭部を負傷し、流血淋漓(りんり)失神不省(ふせい)の態(てい)となりぬ。大島姫は初めて口をきり、 『われは南高山の年古くすむ高倉(たかくら)といふ白狐(びやくこ)なり。道彦はわが頭首(かしら)を打滅(うちほろぼ)せしにより、その仇(あだ)を報ゆるために姫の体内を借り、これを階下になげつけ、傷口より毒血(どくち)を注ぎいれたれば、彼はたちまち聾唖(ろうあ)となり、痴呆となり、かつ発狂の気味を有するにいたるは火をみるよりも明(あきら)かなり。アヽ嬉しや、喜ばしや』 と肩を前後左右にゆすり、足踏みして愉快気に哄笑(こうせう)するにぞ、八島姫はおほいに悲しみ、道彦を抱(いだ)きおこし、別殿にかつぎこみて種々(しゆじゆ)介抱に手をつくしたれども道彦の容態すこしも変らず、八島姫の言葉にたいして何の反応もなく、ただただ‘げらげら’と涎(よだれ)をたらして笑ふのみなりける。 大島姫はふたたび身体を前後左右に震動させながら、大島別にむかひ、 『われはもはや道彦を術中に陥れたれば、これに憑依するの必要なし。イザこれより常世城(とこよじやう)に遁(に)げ帰らむ』 と言ふかとみれば、大島姫はバツタリ殿中にうち倒れたり。諸神司(しよしん)は右往左往に周章狼狽して水よ薬よと騒ぎまはりしが、やうやくにして大島姫は正気に復し、さもはづかしき面色(おももち)にて大島別の前に平伏し、城中を騒がせし罪を拝謝したりける。ここに道彦は真正(しんせい)の聾唖にして、かつ痴呆にかかり、全快の望みなきものと一般に信ぜらるるにいたりけるぞ口惜(くちを)しけれ。 道彦は白狐の高倉と旭の二柱(ふたはしら)にみちびかれ、南高山の山頂にある数多(あまた)の珍宝を調査すべく上(のぼ)りゆく。されど痴呆と思ひつめたる神司(かみがみ)らは、道彦の行動に毫(がう)も注意を払はざりしは、道彦にとりて非常なる幸福(さいはひ)なりける。 道彦は、夜陰に乗じ白狐の案内にて山頂に登りみれば、常世姫(とこよひめ)の間者(かんじや)なる高山彦(たかやまひこ)は、山頂の土を開掘(かいくつ)し、すでに種々の珍宝を奪ひ、常世の国に帰らむとして同類とともに、あまたの荷物をこしらへたる最中なりき。そこへ突然道彦が現はれきたりたれど、高山彦は痴呆にして聾唖なる道彦と思ひ、少しも懸念せず種々の宝を掘出(ほりだ)し、かつ貴重なる宝物を道彦の背に負はせ、山を下(くだ)らしめむとせり。一味の曲者(くせもの)はおのおの宝を背負ひ、山を下りゆかむとするこの時、高倉、旭の白狐はにはかに千仭(せんじん)の谷間を平地と見せかけたれば、いづれも平坦の道路(みち)と思ひ誤り、残らず谷間におちいり、岩角に傷つき、あるひは渓流に流され、ほとンど曲者の一隊は全滅しをはりしぞ愉快なれ。 高山彦も大負傷をなし、つひに滅亡せしかば、道彦は白狐に導かれ谷間を下りけるに、不思議にも、その谷間は自分のかつて顚落(てんらく)したりし同じ箇所なりき。すべての宝は皆この谷底に集まりありければ、白狐の指示(さししめ)すままにその宝を一所(ひとところ)にあつめ、土を掘りてこれを深く秘め蔵(かく)し、その上に千引(ちびき)の岩をもつて覆ひ、何くはぬ顔にて帰り来たりける。 南高山の城内には、高山彦以下のあまたの神司(かみがみ)の姿見えざるに不審をおこし、四方八方に手配(てくば)りして、その行方を探しつつありしところへ帰り来たりし道彦の衣類には、血が一面に附着しゐたれば、大島別は、道彦の衣類の血を見て、やや不審を抱(いだ)きつつありけるところへ、数多の神司(かみがみ)は高山彦の屍骸(なきがら)を担ぎ帰り来たりぬ。しかして数多の神司(かみがみ)の渓流に落ちて苦しみ、ほとンど全滅せることを委細に奏上したりける。時しも高山彦の従臣なる高彦(たかひこ)は、危難をまぬがれ帰り来り、道彦のために全部滅ぼされむとしたることを、涙とともに奏上したりける。 大島別は烈火のごとく憤り、長刀(ちやうたう)を引抜き、真向(まつかう)から道彦に斬りつけたるに、道彦はヒラリと体(たい)をかはし、手をうつて笑ひながら後退(あとしざ)りしつつ、 『ここまで御座れ、甘酒のまそ』 と踊りつつ城門をにげだしたり。八島姫は血相かへて道彦の後を追ひつつ門外に出(い)づるや、たちまち暗(やみ)にまぎれて行方をくらましにける。 (大正一〇・一二・六 旧一一・八 外山豊二録) 腹(はら)借りて賤ケ伏家(しづがふせや)に産声を あげたるひとの神の子珍らし |
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