第三篇 ロツキー山 < 第六章 籠の鳥 (106) >
2007/09/30(Sun)
第三篇 ロツキー山


< 第六章 籠(かご)の鳥(とり) (一〇六) >


 国直姫命(くになほひめのみこと)は靖国姫(やすくにひめ)とともにロツキー山(ざん)の諸神将卒(しよしんしやうそつ)を集め、高天原(たかあまはら)の惨状(さんじやう)を物語り、かつ・・・・・我(われ)は天の御三体(てんのごさんたい)の大神(おほかみ)の命(めい)を奉(ほう)じ、ロツキー山(ざん)に地の高天原(ちのたかあまはら)を建設し、国治立命(くにはるたちのみこと)を迎(むか)へたてまつり、天地(てんち)の律法を厳守(げんしゆ)し、もつて至善至美(しぜんしび)なるミロクの神政(しんせい)を布(し)かむとす。汝(なんぢ)ら諸神将卒(しよしんしやうそつ)心(こころ)を合(あは)せ我(わ)が命(めい)を奉じ、力(ちから)を一(いつ)にして、もつて神政成就(しんせいじやうじゆ)のために努力せよ・・・・・と宣示(せんじ)したり。
 諸神将卒(しよしんしやうそつ)は一点の疑ひもなく、この宣示を遵守(じゆんしゆ)し、ますます結束(けつそく)を固くし、各(かく)城門(じやうもん)には勇猛なる神将(しんしやう)を配置し、固くこれを守らしめたり。このとき東天(とうてん)をとどろかし、天の磐船(あまのいはぶね)に乗りてきたる神あり、靖国別(やすくにわけ)に面談せむと、眉目清秀(びもくせいしう)威厳(ゐげん)犯(をか)すべからざる言霊別命(ことたまわけのみこと)がこの場に現(あら)はれたまひける。東門(ひがしもん)の神将(しんしやう)玉国別(たまくにわけ)は、ただちにこの旨(むね)を国直姫命(くになほひめのみこと)に奏上しければ、命(みこと)はただちに大広間(おほひろま)に諸神将(しよしんしやう)を集め、列座(れつざ)せる中央に言霊別命(ことたまわけのみこと)を招き、その来意(らいい)を尋ねける。
 ここに言霊別命(ことたまわけのみこと)は、
 『貴治彦(たかはるひこ)の使者(ししや)国彦(くにひこ)の進言(しんげん)により、高天原(たかあまはら)の混乱状態に陥(おちい)り、国直姫命(くになほひめのみこと)は身をもつて免(まぬが)れ、大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)は昇天し、国治立命(くにはるたちのみこと)は行衛不明(ゆくゑふめい)となりたまひたりとの密使(みつし)ロツキー山(ざん)に来(きた)れりと聞き、不審(ふしん)にたへず、事(こと)の実否(じつぴ)を調査せむために、我(われ)は大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)の使神(ししん)として出向(しゆつかう)せり。今日(こんにち)の地の高天原(ちのたかあまはら)はきはめて平穏無事(へいおんぶじ)なり。したがつて国治立命(くにはるたちのみこと)をはじめ、国直姫命(くになほひめのみこと)、大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)はすこぶる健全にして神務(しんむ)に鞅掌(あうしやう)せられ、天地の律法は完全に行はれつつあり。しかるに何者(なにもの)の奸策(かんさく)にや、当城(たうじやう)にむけ虚偽(きよぎ)の密告(みつこく)をなし当山(たうざん)を撹乱(かくらん)せむとはする、貴下(きか)は何者なるぞ』
と国直姫命(くになほひめのみこと)にむかつて詰問(きつもん)せり。このとき国直姫命(くになほひめのみこと)は容色(ようしよく)をあらため威儀(ゐぎ)を正(ただ)し、
 『汝(なんぢ)言霊別命(ことたまわけのみこと)と自称(じしやう)するも我(われ)はこれを信ぜず。現(げん)に国直姫命(くになほひめのみこと)は我(われ)なるぞ。しかるに国直姫命(くになほひめのみこと)高天原(たかあまはら)にあり、大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)も健全に神務(しんむ)に従事(じゆうじ)せりとは虚偽(きよぎ)もまた甚(はなは)だしからずや。汝(なんぢ)は「詐(いつは)るなかれ」といふ天地の律法を破(やぶ)りたる邪神(じやしん)なり、国直姫命(くになほひめのみこと)豈(あに)二柱(ふたはしら)あらむや』
と色(いろ)をなして言(い)ひ放ちけるにぞ、ここに諸神将(しよしんしやう)は、・・・・・我(われ)らをいつはる不届至極(ふとどきしごく)の邪神(じやしん)、贋(にせ)言霊別命(ことたまわけのみこと)を厳罰(げんばつ)に処(しよ)せむ・・・・・といふより早く目と目を見合(みあは)せ、ただちに立つて命(みこと)を後手(うしろで)に縛(しば)りあげ、口(くち)に猿轡(さるぐつわ)をはませ、神卒(しんそつ)をして泥(どろ)深き堀の中に投棄(とうき)し、凱歌(がいか)を奏(そう)しふたたび国直姫命(くになほひめのみこと)の御前(ごぜん)に出(い)で鼻高々(はなたかだか)とこの顛末(てんまつ)を奏上(そうじやう)したり。国直姫命(くになほひめのみこと)は賞詞(しやうし)を賜はるかと思ひきや、・・・・・汝(なんぢ)らは『殺すなすれ』との天則(てんそく)に違反せり。すみやかに根の国(ねのくに)に退去を命(めい)ず・・・・・と厳(おごそ)かに言(い)ひわたしければ、案(あん)に相違(さうゐ)の神司(かみがみ)らは梟(ふくろ)の夜食(やしよく)に外(はづ)れたるごとき不平面(ふへいづら)にて、神将(しんしやう)に引立(ひきた)てられ牢獄(らうごく)に投げ込まれける。一方(いつぱう)言霊別命(ことたまわけのみこと)は辛(から)うじて泥中(でいちう)より這(は)ひ上(あが)りしところを番卒(ばんそつ)に見つけられ、高手小手(たかてこて)に縛(いまし)められて牢獄(らうごく)に投げこまれ、無限の苦痛をなめたまひける。
 折(をり)しもどこともなく微妙(びめう)の音楽聞え、紺碧(こんぺき)の蒼空(さうくう)より五色(ごしき)の雲(くも)に乗り、あまたの神将(しんしやう)をしたがへ十曜(とえう)の神旗(しんき)を幾十(いくじふ)ともなく押したてて、ロツキー山(ざん)にむかつて下(くだ)りきたる、栄光と権威の具(そな)はれる大神(おほかみ)現(あら)はれましぬ。国直姫命(くになほひめのみこと)は恭敬礼拝(きようけいれいはい)拍手(はくしゆ)してこれを迎(むか)へ、・・・・・国治立命(くにはるたちのみこと)様御苦労に存じ奉(たてまつ)る・・・・・と大声(おほごゑ)に奏上したれば、あまたの神司(かみがみ)は命(みこと)の声を聞くと斉(ひと)しく恭敬礼拝(きようけいれいはい)低頭平身(ていとうへいしん)、礼の限りをつくして奉迎(ほうげい)し、歓喜(くわんき)の涙にくれにける。
 ここに国直姫命(くになほひめのみこと)は国治立命(くにはるたちのみこと)を奥殿(おくでん)に案内し奉(たてまつ)り、かつ諸神司(しよしん)を集めて地の高天原(ちのたかあまはら)を天の大神(てんのおほかみ)の命(めい)により、ロツキー山(ざん)に遷(うつ)されし事を宣示(せんじ)しける。諸神将卒(しよしんしやうそつ)は欣喜雀躍(きんきじやくやく)手(て)の舞ひ足(あし)の踏む処(ところ)を知らざりし。時(とき)しも天の鳥船(あまのとりぶね)に乗りて、地の高天原(ちのたかあまはら)より八王神(やつわうじん)なる貴治彦(たかはるひこ)、八頭神(やつがしらがみ)なる靖国別(やすくにわけ)帰り来(きた)り、東門(ひがしもん)に降下(かうか)し、番卒(ばんそつ)にむかつて開門(かいもん)を命(めい)じたり。番卒は大(おほい)に驚き、唯々(ゐゐ)として門を開(ひら)き二神将(にしんしやう)を通(とほ)したり。二神将(にしんしやう)は直(ただち)に奥殿(おくでん)に気色(けしき)を変(か)へて進み入(い)り、靖国別(やすくにわけ)を一間(ひとま)に招き、高天原(たかあまはら)の実況を物語り、かつ、・・・・・当山(たうざん)に逃げ来(きた)りしといふ国治立命(くにはるたちのみこと)は、その実(じつ)常世姫(とこよひめ)の部下の邪神(じやしん)なり・・・・・と語れば、靖国別(やすくにわけ)は大(おほい)に驚き、かつ、その真偽(しんぎ)に迷はざるを得ざりける。
 ここに貴治彦(たかはるひこ)、靖国別(やすくにわけ)は城内(じやうない)の諸神司(しよしん)を集め、地の高天原(ちのたかあまはら)の実況を伝達せむとし城内一般に令(れい)を発(はつ)したるに、偽(にせ)国直姫命(くになほひめのみこと)は陰謀の露見(ろけん)せむことを恐れ、みづからも諸神将(しよしんしやう)に令(れい)を発し、大広前(おほひろまへ)に集まらしめける。諸神将卒(しよしんしやうそつ)は一柱(ひとはしら)として国直姫命(くになほひめのみこと)を偽神(ぎしん)と信ずる者なく、かつ偽(にせ)の国治立命(くにはるたちのみこと)を一層深く信頼しゐたりける。このとき貴治彦(たかはるひこ)、靖国別(やすくにわけ)は正座(しやうざ)になほり、偽(にせ)の国直姫(くになほひめ)にむかつて、
貴治彦(たかはるひこ)『汝(なんぢ)はいづれより来(きた)りし邪神(じやしん)なるか有体(ありてい)に白状(はくじやう)せよ。返答(へんたふ)次第によりては容赦(ようしや)はならじ』
と双方(さうはう)より詰(つ)めかけけるを、国直姫命(くになほひめのみこと)はカラカラとうち笑ひ、
 『汝(なんぢ)は主神(しゆしん)にむかつて無礼(ぶれい)の雑言(ざうごん)、「長上(ちやうじやう)を敬(うやま)へ」との律法を破る反逆者(はんぎやくしや)ならずや。また汝(なんぢ)は地の高天原(ちのたかあまはら)にいたりてその惨状(さんじやう)を見きはめ帰(かへ)りしにもかかはらず、吾(われ)にむかつて何(いづ)れの邪神ぞと口(くち)をきはめて罵(ののし)るは、これまた律法違反に非(あら)ずや。我(われ)はただちに奥殿(おくでん)に入(い)り、国治立命(くにはるたちのみこと)に汝(なんぢ)が無礼の次第を逐一(ちくいち)奏上(そうじやう)し奉(たてまつ)らむ、しばらく控へよ』
と、足音荒く奥殿(おくでん)に急ぎ進入したりしが、城内(じやうない)の諸神将(しよしんしやう)はこの光景を見てやや不審の雲に包まれゐたり。貴治彦(たかはるひこ)、靖国別(やすくにわけ)は怒心頭(いかりしんとう)に達し、二神司(にしん)は共に刀の柄(つか)に手をかけ、国直姫命(くになほひめのみこと)を一刀(いつたう)の下(もと)に切り付けむと決心したりしが、たちまち天地(てんち)の律法を思ひ出し・・・・・「怒(いか)る勿(なか)れ、殺す勿(なか)れ」いま我(われ)短慮(たんりよ)を起(おこ)しなばみづから天則(てんそく)を破る者なり、ああ如何(いか)にせむ・・・・・と思案(しあん)にくるるをりしも、奥殿(おくでん)より国治立命(くにはるたちのみこと)あまたの待神(じしん)を従(したが)へ、悠然(いうぜん)と立ち現(あら)はれ、
 『国治立命(くにはるたちのみこと)これに在(あ)り、汝(なんぢ)何ゆゑなれば天地の大命(たいめい)を拝持(はいぢ)する国直姫命(くになほひめのみこと)にむかつて暴言(ばうげん)を吐くや、汝(なんぢ)は天地の律法を破壊する邪神(じやしん)なり、一時(いちじ)も早くこの場を立去(たちさ)れ。万一(まんいち)吾(わ)が言(げん)に違背(ゐはい)せば、やむを得ず汝(なんぢ)ら二人を、根の国(ねのくに)に退去を命(めい)ず』
と、言辞(ことば)おごそかに伝(つた)へければ、城内(じやうない)の諸神将卒(しよしんしやうそつ)はいづれも真正(しんせい)の国治立命(くにはるたちのみこと)と信じ、この二人を天則違反者(てんそくゐはんしや)となして、ロツキー山(ざん)を退去せしめたりける。ここに貴治彦(たかはるひこ)はモスコーに逃(のが)れ、蟄居(ちつきよ)して時期を待つこととなりぬ。また靖国別(やすくにわけ)夫婦は何処(どこ)ともなく落ちのび行衛不明(ゆくゑふめい)となれり。
   附言(ふげん)  この国治立命(くにはるたちのみこと)といふは六面八臂(ろくめんはつぴ)の邪鬼(じやき)の変化(へんげ)にして、国直姫命(くになほひめのみこと)は常世姫(とこよひめ)の部下醜玉姫(しこたまひめ)なり。かくしてロツキー山(ざん)は悪魔の手におちいり、諸神将卒(しよしんしやうそつ)は、その邪神(じやしん)たることを覚(さと)る者なく、ここに偽(にせ)高天原(たかあまはら)はある時期まで、建設されゐたりしなり。

(大正一〇・一一・一四 旧一〇・一五 河津雄録)


        親しきは常(つね)のことなり皇神(すめかみ)の
             直(すぐ)なる御法(みのり)曲(ま)ぐるべしやは


        世の人の口(くち)の車(くるま)に乗せられな
             悪魔は人の口(くち)を借(か)るなり



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第三篇 ロツキー山 < 第五章 不審の使神 (105) >
2007/09/29(Sat)
第三篇 ロツキー山


< 第五章 不審の使神(ししん) (一〇五) >


 ロツキー山(ざん)は紺色(こんいろ)の玉(たま)を、荘厳(さうごん)なる神殿を建立(こんりふ)して鎮祭(ちんさい)され、貴治彦(たかはるひこ) 八王神(やつわうじん)となり、靖国別(やすくにわけ) 八頭神(やつがしらがみ)となり、律法を遵守(じゆんしゆ)して、きはめて平穏(へいおん)に神事(しんじ)、神政(しんせい)は行(おこな)はれけり。
 ある時、靖国別(やすくにわけ)の居間(ゐま)の扉(と)を、ひそかに叩く者あり。靖国別(やすくにわけ)は、侍女(じぢよ)とともに扉(とびら)を開(ひら)き、
 『かかる深夜(しんや)に戸(と)を叩くは何者(なにもの)ぞ』
と問(と)ひただせば、声に応じて、
 『私(わたくし)は地の高天原(ちのたかあまはら)なる国直姫命(くになほひめのみこと)の密使(みつし)にして、小島彦(をじまひこ)と申す者なり』
 《附言(ふげん)、小島彦(をじまひこ)と称(しやう)するは実(じつ)は偽名(ぎめい)にて、常世彦(とこよひこ)の間者(かんじや)、玉醜別(たましこわけ)といふ曲者(くせもの)なりける》
 靖国姫(やすくにひめ)は小島彦(をじまひこ)に一面識もなければ、その真偽(しんぎ)を知らず、国直姫命(くになほひめのみこと)の急使(きふし)と聞きて大(おほ)いに驚き、
 『かかる夜陰(やいん)にひそかに来(きた)りたまふは、地の高天原(ちのたかあまはら)に何事(なにごと)か急変(きふへん)おこりしならむ。まづわが居間(ゐま)に』
と小島彦(をじまひこ)を引入(ひきい)れ、その用務(ようむ)をあわただしく息をはづませ問(と)ひかくれば、小島彦(をじまひこ)は声を低(ひく)ふし四辺(あたり)に眼(め)を配り、かつ畏(おそ)れながら、
 『隣神(りんしん)を遠ざけたまへ』
と仔細(しさい)ありげなり。
 靖国姫(やすくにひめ)はその言(げん)のごとく隣神(りんしん)を遠ざけ、小島彦(をじまひこ)としづかに対座(たいざ)したり。小島彦(をじまひこ)は声を低(ひく)ふしていふ、
 『地の高天原(ちのたかあまはら)には大変事(たいへんじ)出来(しゆつたい)し、天使長(てんしちやう)大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)は、八王大神(やつわうだいじん)部下の神の悪辣(あくらつ)なる計略におちいり、つひに上天(しやうてん)せり。その他(た)の天使は善後策(ぜんごさく)につき協議中にして、一歩も外出することを得ず。上(うへ)を下(した)への大騒ぎなれば、我(われ)をして天使代理として遣(つか)はしたまふ。ゆゑに我(わ)が言(げん)は国直姫命(くになほひめのみこと)の神言(しんげん)にして、天使の言(げん)も同様なり。一時(いちじ)も早く靖国別(やすくにわけ)に貴下(きか)より伝言せられたし』
と顔色(がんしよく)を変(へん)じていひければ、靖国別(やすくにわけ)はそのまま使者をわが居間に待たせておき、靖国別(やすくにわけ)の寝殿(しんでん)にいたり、密使(みつし)の次第を逐一(ちくいち)進言(しんげん)したりけり。靖国別(やすくにわけ)は大(おほ)いに驚きしばらく双手(もろて)を組(く)ンで思案(しあん)の体(てい)なりし。たちまち座を立つて、貴治彦(たかはるひこ)の御殿(ごてん)に参向(さんかう)し、密使(みつし)の次第(しだい)を逐一(ちくいち)奏上したりける。
 貴治彦(たかはるひこ)はこれを聞いて大(おほ)いに訝(いぶ)かり、
 『国直姫命(くになほひめのみこと)の密使ならば、第一着に吾(わ)れに伝へらるべきはずなり。しかるに如何(いか)なる変事(へんじ)ありとて吾(わ)れを差しおき、しかも女神(めがみ)の居間をたたき、かかる一大事を報告すべき理由なし。想(おも)ふに反逆を企(くはだ)つる者の奸手段(かんしゆだん)なるべし。汝(なんぢ)らはすみやかに、その密使を我(わ)が前(まへ)にともなひ来(きた)れ。我(われ)は彼(かれ)に会(あ)ひ実否(じつぴ)を調査せむ』
と言葉を残して殿中(でんちう)に進み入りける。
 靖国別(やすくにわけ)は命(めい)を奉(ほう)じ、小島彦(をじまひこ)を伴(ともな)ひひそかに殿中(でんちう)に伺候(しこう)し、貴治彦(たかはるひこ)にむかつて謁(えつ)を乞(こ)ひしに、命(みこと)は小島彦(をじまひこ)にむかつて密使(みつし)の次第を詳細に訊問(じんもん)したりける。小島彦(をじまひこ)は低頭平身(ていとうへいしん)して言葉たくみに、前述の次第を奏上し、一時(いちじ)もはやく貴治彦(たかはるひこ)の地の高天原(ちのたかあまはら)へのぼられむことを懇請(こんせい)し、かついふ。
 『徒(いたづら)に躊躇逡巡(ちうちよしゆんじゆん)して時(とき)を移さば一層(いつそう)大事変(だいじへん)を惹起(じやくき)し、つひには国直姫命(くになほひめのみこと)の御身辺も危(あやふ)からむ。大神(おほかみ)の一大事(いちだいじ)、早くこの場を立つて、吾(われ)らとともに地の高天原(ちのたかあまはら)へ参向(さんかう)されたし』
と進言(しんげん)せる。
 折(をり)からたちまち城下(じやうか)におこる鬨(とき)の声(こゑ)。命(みこと)は急ぎ勾欄(こうらん)にのぼり山下(さんか)はるかに見渡せば、夜陰(やいん)のため確かにそれと判別はつかざれども、立ちならぶ無数の高張(たかはり)は、十曜(とえう)の神紋(しんもん)記(しる)されありき。ただごとならじと元(もと)の座にかへり、靖国別(やすくにわけ)に何事(なにごと)か耳語(じご)したまひける。矢叫(やさけ)びの声、鬨の声(ときのこゑ)、次第に近づききたる。そのとき地の高天原(ちのたかあまはら)の従神司(じゆうしん)豊彦(とよひこ)は(実は常世姫(とこよひめ)の間者(かんじや))軽装(けいさう)のまま走りきたり階下(かいか)に平伏(へいふく)し、
 『恐(おそ)れながら八王(やつわう)の神(かみ)に注進(ちうしん)し奉(たてまつ)る。地の高天原(ちのたかあまはら)はほとんど破壊の運命に逢着(ほうちやく)し、国治立命(くにはるたちのみこと)は行衛不明(ゆくゑふめい)となり、大混乱状態におちいり、収拾(しうしう)すべからざる惨状なり。国直姫命(くになほひめのみこと)は従者(じゆうしや)をしたがへ小島彦(をじまひこ)の跡(あと)を追ひ、ただ今出御(しゆつぎよ)相(あひ)なりたり。相当の礼をつくして諸神司(しよしん)をして城門(じやうもん)に奉迎(ほうげい)せしめたまへ』
とあわただしく奏上したるにそ、命(みこと)は寝耳(ねみみ)に水(みづ)の注進(ちうしん)にしばし茫然(ばうぜん)としてゐたりしが、ただちに靖国別(やすくにわけ)に命(めい)じて城内(じやうない)の諸神司(しよしん)に非常召集(せうしふ)を命(めい)じ、国直姫命(くになほひめのみこと)を城門(じやうもん)に迎(むか)へたてまつるの準備に着手されたりける。
 命(みこと)の命令一下(いつか)とともに、諸神司(しよしん)は各自礼装をととのへ、城門に奉迎(ほうげい)したり。
 ここに国直姫命(くになほひめのみこと)は諸神(しよしん)とともに悠然(いうぜん)として入(い)りきたり、慇懃(いんぎん)に挨拶を述べ、地の高天原(ちのたかあまはら)の惨状を物語(ものがた)られける。ここに国直姫命(くになほひめのみこと)の命令を奉(ほう)じて貴治彦(たかはるひこ)、靖国別(やすくにわけ)は少数の神軍(しんぐん)をひきゐ、地の高天原(ちのたかあまはら)へ応援のため参向(さんかう)することに決したり、
 あまたの諸神将卒(しよしんしやうそつ)は靖国姫(やすくにひめ)を守護し、ロツキー山(ざん)の城中(じやうちう)にとどまり、しばらく形勢(けいせい)を観望(くわんばう)することとはなりける。
 これよりさきに貴治彦(たかはるひこ)は、国彦(くにひこ)をひそかに地の高天原(ちのたかあまはら)につかはし、実否(じつぴ)を糺(ただ)さしめ、かつ小島彦(をじまひこ)の密使(みつし)の真偽(しんぎ)を調査せしめゐたりしなり。
 大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)は国彦(くにひこ)の言(げん)を聞いておほひに驚き、
 『地の高天原(ちのたかあまはら)はかくのごとく平穏無事(へいおんぶじ)なるに、かかる密使(みつし)をだすべき理由なし。察(さつ)するところ邪神の奸策(かんさく)ならむ。このまま捨ておかば、ロツキー山(ざん)は、いかなる運命に逢着(はうちやく)するや計(はか)りがたし』
と、言霊別命(ひとたまわけのみこと)に、国彦(くにひこ)を添(そ)へ、あまたの従神(じゆうしん)とともに、ロツキー山(ざん)に急(いそ)ぎ出発せしめられたるぞ畏(かし)こけれ。

                        (大正一〇・一一・一四 旧一〇・一五 栗原七蔵録)


        千早振(ちはやふる)神(かみ)ぞあらはれきたのそらの
             綾(あや)の高天(たかま)に教(のり)伝へますも


        烏羽玉(うばたま)の世(よ)を晴(はら)さむとあらがねの
             地(つち)の御祖(みおや)は現(あ)れましにけり


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第二篇 新高山 <第四章 鶴の首 (104) >
2007/09/28(Fri)
第二篇 新 高 山


< 第四章 鶴(つる) の 首(くび) (一〇四) >


 高国別(たかくにわけ)は妻に先だたれ、心(こころ)さびしく新高山(にいたかやま)の城中(じやうちゆう)にあつて、神業(しんげふ)に奉仕しつつありけれども、花森彦(はなもりひこ)の神意(しんい)を了解せず、心中(しんちう)に不平を抱(いだ)きゐたりける。玉手姫(たまてひめ)は高国別(たかくにわけ)の常(つね)に怏々(おうおう)として楽(たのし)まず、不平無聊(ふへいむれう)に日を送りつつあるを慰撫(ゐぶ)し、つひに命(みこと)の絶対的信任を得(う)るにいたり、ここに第二の妻と昇進したりける。玉手姫(たまてひめ)はその実(じつ)は常世姫(とこよひめ)の間者(かんじや)にして、高国姫(たかくにひめ)を谷間(たにま)に落して苦しましめたるも、また重病におちいらしめたのも、玉手姫(たまてひめ)のひきゆる悪魔の暗中飛躍的悪計なりき。花森彦(はなもりひこ)はさすがに名智(めいち)の神将(しんしやう)なればよくこれを察知(さつち)し、高国別(たかくにわけ)にむかつて、玉手姫(たまてひめ)を追出(おひだ)すべく厳命(げんめい)されたれど高国別(たかくにわけ)は玉手姫(たまてひめ)を少しも疑(うたが)はず、深く信任して天使(てんし)の厳命(げんめい)を無情冷酷と恨(うら)み、かつ猥(みだり)に怒(いか)ることは、天地(てんち)の律法違反なるをもつて、これが処罰(しよばつ)を命(めい)ぜられたりしなり。
 高国別(たかくにわけ)は玉手姫(たまてひめ)と夫婦になり、ひそかに天使長(てんしちやう)大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)に向(むか)つて信書(しんしよ)をたてまつり、花森彦(はなもりひこ)の横暴(わうばう)かぎりなき処置を、口(くち)をきはめて進言(しんげん)したり。大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)はただちに言霊別命(ことたまわけのみこと)をして新高山(にいたかやま)に急行(きふかう)せしめ、精密なる調査を命(めい)じたまひぬ。言霊別命(ことたまわけのみこと)はここに花森彦(はなもりひこ)、玉手姫(たまてひめ)を一同に命(みこと)の前に来(きた)らしめ、審判(しんぱん)を開始されけるが、花森彦(はなもりひこ)は言霊別命(ことたまわけのみこと)にむかひ、高国別(たかくにわけ)夫妻が玉手姫(たまてひめ)の悪計(あくけい)にかかりをることを詳細に述べたり。このとき玉手姫(たまてひめ)は涙を流して泣き伏し、言霊別命(ことたまわけのみこと)にむかつて、花森彦(はなもりひこ)の無情をうつたへ、かつ自分の誠意の貫徹(くわんてつ)せざることを言葉たくみに進言(しんげん)したりける。
 ここに花森彦(はなもりひこ)は高国別(たかくにわけ)の天地(てんち)の律法に違反し、かつ玉手姫(たまてひめ)を妻とせる不法の行為を述べたてたるに、高国別(たかくにわけ)はうやうやしく言霊別命(ことたまわけのみこと)にむかつていふ。
 『我(われ)は不幸にして高国別(たかくにわけ)に死別(しにわか)れ、神務(しんむ)を輔佐(ほさ)する者なく、実(じつ)に煩悶苦悩(はんもんくなう)せしに、忠実なる玉手姫(たまてひめ)は陰(いん)に陽(やう)に我(わ)が神業(しんげふ)を輔佐(ほさ)し功績もつとも顕著(けんちよ)にして、この高砂島(たかさごじま)においては彼(かれ)にまさる完全なる輔助者(ほじよしや)なし。いかに一夫一婦の律法あればとて、我(われ)はすでに妻を失ひ孤独となれり。故(ゆゑ)にここに諸神司(しよしん)に信任厚き玉手姫(たまてひめ)を登用(とうよう)して、妻(つま)となすに何(なに)の不可(ふか)かこれあらむ。一夫一婦は天地律法の精神ならずや』
と口(くち)をきはめて進言(しんげん)したりければ、言霊別命(ことたまわけのみこと)は、
 『汝(なんぢ)のいふところ一理(いちり)なきにあらざれども、本嶋(ほんたう)の主権者たる花森彦(はなもりひこ)の認許(にんきよ)を受けずして、独断的にかかる一大事を決行するは道理に反するものなり。今後は主権者の認許を得て何事も決行すべし』
と厳命(げんめい)したまへば、高国別(たかくにわけ)はいふ。
 『貴神(きしん)の厳命(げんめい)は実(じつ)にもつとも千万(せんばん)なれども、本嶋(ほんたう)の主権者たる花森彦(はなもりひこ)はすでに天則(てんそく)に違反し、延(ひ)いて稚桜姫命(わかざくらひめのみこと)を幽界(いうかい)に降(くだ)したてまつりたる無道(むだう)の神司(かみ)なり。我(われ)いかに天地を畏(おそ)れ長上(ちやうじやう)を尊(たふと)べとの律法ありといへども、かかる不徳不義(ふとくふぎ)なる天使の命(めい)を聞くに堪(た)へむや。君(きみ)君(きみ)たらずンば臣(しん)臣(しん)たらず、願はくは公明正大なる御裁断(ごさいだん)を乞(こ)ひ奉(たてまつ)る』
と涙を流して陳弁(ちんべん)するにぞ、言霊別命(ことたまわけのみこと)は高国別(たかくにわけ)にむかつて、
 『花森彦(はなもりひこ)の罪は律法制定前(ぜん)の罪にして、国治立命(くにはるたちのみこと)のすでに恩赦(おんしや)されしは汝(なんぢ)も知るところならむ。しかるに汝(なんぢ)律法制定後、八頭(やつがしら)の神(かみ)となり、国魂(くにたま)の神(かみ)に仕へながら、邪神のために誤(あやま)られて最愛の妻を失ひ、玉手姫(たまてひめ)の容色(ようしよく)に迷ひ、かつ長上(ちやうじやう)の命(めい)を奉ぜず。これに越えたる律法破壊者はなし』
と宣示(せんじ)したまひ、
 『高国別(たかくにわけ)にしてなほ迷夢(めいむ)を醒(さま)さざれば是非(ぜひ)なし』
といひつつ神殿より青色(せいしよく)の玉(たま)を取りだし、玉手姫(たまてひめ)の面上(めんじやう)を射照(いてら)したまへば、今まで玉(たま)を欺(あざむ)く姫の姿はたちまち悪狐(あくこ)と変(へん)じ、雲を翔(かけ)りて空中高く西天(せいてん)に姿を隠しける。高国別(たかくにわけ)はここに初めて花森彦(はなもりひこ)の明察(めいさつ)に驚き、今までの無礼を涙とともに陳謝(ちんしや)したりければ、言霊別命(ことたまわけのみこと)は深く将来を戒(いまし)め、・・・・・何事も主権者の命(めい)を奉(ほう)じ、神政(しんせい)に奉仕せよ・・・・・と厳命(げんめい)し、かつ・・・・・委細(ゐさい)を大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)に報告し、何分(なにぶん)の沙汰(さた)あるまで謹慎(きんしん)を表(へう)しをるべし・・・・・と地の高天原(ちのたかあまはら)に帰還(きくわん)し、一伍一什(いちぶしじふ)を天使長(てんしちやう)に奏上(そうじやう)したまひける。審議(しんぎ)の結果高国別(たかくにわけ)に厳(きび)しく注意をあたへ、今回の失敗の罪は問(と)はざることとなりにけり。
 しかるに常世姫(とこよひめ)一派の悪魔は、千変万化(せんぺんばんくわ)の悪計をめぐらし、つひには高国別(たかくにわけ)をおとしいれ、蒙古別(もうこわけ)をしてその地位に代(かは)らしめ、花森彦(はなもりひこ)を新高山(にいたかやま)の西南方(せいなんぱう)に押込(おしこ)めたりければ、さしも平和の高砂島(たかさごじま)は大半(たいはん)常世姫(とこよひめ)の部下の占領するところとなりける。されど花森彦(はなもりひこ)の至粋至純(しすゐしじゆん)の霊魂(みたま)は永(なが)く本嶋(ほんたう)にとどまり、青色(せいしよく)の玉(たま)とともにこの島(しま)に永久(とこしへ)に隠されにける。花森彦(はなもりひこ)の子孫(しそん)も今に儼存(げんぞん)して勇猛義烈(ゆうまうぎれつ)の神民(しんみん)となり、神の御魂(みたま)を維持(ゐじ)しつつ弥勒神政(みろくしんせい)の出現を鶴首(くわくしゆ)して霊(たま)を研(みが)きて待(まち)おれりといふ。

                        (大正一〇・一一・一三 旧一〇・一四 土井靖都録)



        日(ひ)も月(つき)も天津御神(あまつみかみ)の造(つく)られし
             物(もの)と思へばわが物(もの)は無(な)し


        村雲(むらくも)に隠れし月(つき)も天つ風(あまつかぜ)
             伊吹(いぶき)はらへばまたも輝く


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第二篇 新高山 < 第三章 渓間の悲劇 >
2007/09/27(Thu)
第二篇  新 高 山


< 第三章 渓間(けいかん)の悲劇 (一〇三) >

 新高山(にいたかやま)の花森彦(はなもりひこ)統裁(とうさい)のもとに、高国別(たかくにわけ)、高国姫(たかくにひめ)が天地(てんち)の律法を厳守(げんしゆ)し、高砂島(たかさごじま)一帯(いつたい)の諸神(しよしん)を至治太平(いぢたいへい)に治めゐたりしが、たまたま高国姫(たかくにひめ)は谷間(たにま)に下(くだ)りて清泉(せいせん)を汲(く)まむとし、断崕(だんがい)より過(あやま)つて足を踏み外(はづ)し、谷間(たにま)に転落し、神事不省(しんじふせい)に陥(おちい)りければ、侍者(じしや)らは大いに驚きて、これを救ひあげむと百方(ひやくぱう)手をつくしたれども断崕(だんがい)高く、渓流(けいりう)はげしく、いかんとも救助の道なく、侍者(じしや)は驚きあわてこれの顛末(てんまつ)を詳細に高国別(たかくにわけ)に報告せしより、急報を聞きし夫(をつと)は、たちまち顔色(がんしよく)蒼白(さうはく)となり、とるものも取りあへず、職服(しよくふく)のまま現場にかけつけたりける。
 高国姫(たかくにひめ)は渓間(たにま)の激流におちいり、激浪(げきらう)につつまれて、浮きつ沈みつ悶(もだ)え苦しみ救ひを呼びゐたり。その声は次第に細(ほそ)りゆきて、つひには虫の音(ね)のごとく衰(おとろ)へきたりぬ。いかに救はむとするも断巖絶壁(だんがんぜつぺき)に隔(へだ)てられ救助の道なく、ただ手をつかねて神司(かみがみ)らは、あれよあれよと絶叫(ぜつけう)するばかり、傍観(ばうくわん)するより外(ほか)に方法とてはあらざりにける。
 ここに高国姫(たかくにひめ)の侍者(じしや)に玉手姫(たまてひめ)といふ容色(ようしよく)優(すぐ)れたる女性(によしやう)ありしが、玉手姫(たまてひめ)は、
 『主神(しゆしん)の一大事、我(われ)は生命(せいめい)に替(か)へて救ひまつらむ』
といふより早く着衣(ちやくい)を脱ぎすて、数百丈(すうひやくぢやう)の谷間(たにま)を目がけ、急転直下、高国姫(たかくにひめ)の溺(おぼ)れ苦しむ前に飛下(とびくだ)り、高国姫(たかくにひめ)を小脇(こわき)にかかへ、辛(から)うじて渓流はるかの下流に泳ぎつきこれを救(すく)ひあげたり。高国別(たかくにわけ)夫妻の喜悦(きえつ)と感謝はたとふるに物(もの)もなく、玉手姫(たまてひめ)は高国姫(たかくにひめ)の生命(いのち)の親として優遇され、つひに玉手姫(たまてひめ)は二神司(にしん)の寵愛(ちようあい)ふかき神司(しんし)となりぬ。
 高国別(たかくにわけ)、高国姫(たかくにひめ)二神(にしん)は、玉手姫(たまてひめ)の奇智(きち)と才略(さいりやく)と忠勇心(ちうゆうしん)に深く信頼し、城中(じやうちう)のこと一切は、玉手姫(たまてひめ)のほとんど指揮を待(ま)たざれば何事(なにごと)も決定せざるまでに、漸次(ぜんじ)権勢(けんせい)を張るにいたりける。
 ここに新高山(にいたかやま)を中心とする高砂島(たかさごじま)は、玉手姫(たまてひめ)の水ももらさぬ経綸(けいりん)によつて大(おほ)いに治まり、よく天地(てんち)の律法を厳守(げんしゆ)し、上下一致(しやうかいつち)して神政(しんせい)の模範となり、国の誉(ほまれ)も高砂(たかさご)の、千歳(ちとせ)の松(まつ)の永久(とこしへ)に、治まる御代(みよ)と思ひきや、高国姫(たかくにひめ)は渓流(けいりう)に落ちたるとき、身体(しんたい)の一部に障害をきたし、それが原因となりて大病(たいびやう)を発し、病床に呻吟(しんぎん)し、身体(しんたい)は日に衰(おとろ)へゆくばかりなりける。
 ここに高国別(たかくにわけ)は、高国姫(たかくにひめ)の寵愛(ちようあい)ふかき玉手姫(たまてひめ)をして、昼夜(ちうや)看護に尽力(じんりよく)せしめたるに、玉手姫(たまてひめ)の周到(しうたう)なる看護も何(なん)の効(かう)なく、病(やまひ)は日々(にちにち)重(おも)りゆくのみなりける。ここに花森彦(はなもりひこ)は高国別(たかくにわけ)を近く招き、玉手姫(たまてひめ)を一時(いちじ)も早く追放すべく厳命(げんめい)せられたるにぞ、高国別(たかくにわけ)は天使(てんし)の命(めい)をいぶかり、腑(ふ)におちぬていにて言葉静(しづか)に、
 『かれ玉手姫(たまてひめ)は忠勇無比(ちうゆうむひ)にして真心(まごころ)より懇切(こんせつ)なる神司(かみ)なり。高国姫(たかくにひめ)の危急を救ひたるもまた玉手姫(たまてひめ)なり。多くの侍者(じしや)ありといへども、玉手姫(たまてひめ)のごとき忠実なる者は外(ほか)に一柱(ひとはしら)もなし。しかるに天使(てんし)は何(なに)をもつて玉手姫(たまてひめ)を追ひだせと命(めい)じたまふか』
と、鶴(つる)の一声(ひとこゑ)を残して殿内(でんない)ふかく足早(あしばや)に進みいりぬ。しかして高国別(たかくにわけ)は妻(つま)および玉手姫(たまてひめ)にむかつて、花森彦(はなもりひこ)の厳命(げんめい)の次第を物語れば、高国姫(たかくにひめ)は重き病(やまひ)の頭(あまた)をもたげながら、驚きの眼(め)を見はり、
 『わが生命(せいめい)は玉手姫(たまてひめ)のために救はれ、今また懇切なる看護を受(う)く、妾(わらは)にとつて命(いのち)の親(おや)なり。たとへ天使(てんし)の厳命(げんめい)なりといへども、かかる没義道(もぎだう)なる命(めい)には従ひがたし』
と非常に天使を恨み興奮の結果つひに上天(しやうてん)したりける。高国別(たかくにわけ)は妻の憤死(ふんし)を見て大いに悲しみ、かつ花森彦(はなもりひこ)を深く恨むにいたれり。
 ここに玉手姫(たまてひめ)は高国別(たかくにわけ)の心中(しんちう)を察し、熱涙(ねつるゐ)をうかべ、花森彦(はなもひりこ)の無情冷酷(むじやうれいこく)を怒(いか)り、高国別(たかくにわけ)をして信書(しんしよ)を認(したた)め天使(てんし)に捧呈(ほうてい)せしめける。その文意は、
 『高国別(たかくにわけ)は天使(てんし)の冷酷なる命令を恨み憤死(ふんし)いたしたり。また玉手姫(たまてひめ)は誠意を疑はれ、かつ放逐(はうちく)の命(めい)をうけたるを大いに憤慨(ふんがい)せり。我(われ)はいかに天使の命(めい)なりとて盲従(まうじゆう)するに忍びず、実に貴神(きしん)を恨みまつる』
と云(い)ふの意味なりし。花森彦(はなもひりこ)はこれを披見(ひけん)してただちに高国別(たかくにわけ)にたいし、天則違反(てんそくゐはん)の由(よし)を懇諭(こんゆ)し、かつ、
 『根の国(ねのくに)にいたるべし』
と厳命(げんめい)したりける。高国別(たかくにわけ)は天使の神通力(じんつうりき)を知らず、ただ無情冷酷の処置とのみ思惟(しゐ)し、自暴自棄(じばうじき)となりて、花森彦(はなもりひこ)の無道(むだう)を天使長(てんしちやう)大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)に進言(しんげん)せむとしたりける。

                        (大正一〇・一一・一三 旧一〇・一四 加藤明子録)


        刈(かり)ごもの乱れたる世(よ)を治めむと
             本(もと)つ教(をしへ)を説(と)きひろめたり


        親々(おやおや)の立てたる教(をしへ)をひと筋(すじ)に
             守るはおのが願ひなりけり


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第一篇 国魂の配置 
2007/09/26(Wed)
第一篇 国魂の配置


< 第二章 八王神(やつわうじん)の守護 (一〇二) >


 日天使(につてんし) 国治立命(くにはるたちのみこと)は、シオン山(ざん)に鎮祭(ちんさい)せる十二の玉(たま)を世界の各所に配置して、以(もつ)て国魂(くにたま)の神と定められ、新高山(にひたかやま)には青色(せいしよく)の玉(たま)を鎮(しづ)め、高国別(たかくにわけ)、高国姫(たかくにひめ)の二神(にしん)をして、これを永遠に守らしめたまひけり。
 つぎに万寿山(まんじゆざん)には赤色(せきしよく)の玉(たま)を鎮め、瑞穂別(みづほわけ)、瑞穂姫(みづほひめ)をしてこれを守護せしめ、またローマに白色(はくしよく)の玉(たま)を鎮め、朝照彦(あさてるひこ)、朝照姫(あさてるひめ)をしてこれを守護せしめ、モスコーに黒色(こくしよく)の玉を鎮め、夕日別(ゆふひわけ)、夕照姫(ゆふてるひめ)をしてこれを守護せしめ、ロツキー山(ざん)に紺色(こんいろ)の玉を鎮め、靖国別(やすくにわけ)、靖国姫(やすくにひめ)をしてこれを守護せしめ、つぎに鬼城山(きじやうざん)に灰色(はひいろ)の玉を鎮め、元照彦(もとてるひこ)、元照姫(もとてるひめ)をしてこれを守護せしめ、また長白山(ちやうはくざん)に白色(はくしよく)の玉を鎮め、磐長彦(いはながひこ)、玉代姫(たまよひめ)をしてこれを守護せしめ、コンロン山(ざん)に紅色(こうしよく)の玉を鎮め、大島彦(おほしまひこ)、大島姫(おほしまひめ)をしてこれを守護せしめ、天山(てんざん)に黄色(きいろ)の玉を鎮め、谷山彦(たにやまひこ)、谷山姫(たにやまひめ)をしてこれを守護せしめ、つぎに金色(きんしよく)の玉を青雲山(せいうんざん)に鎮め、吾妻彦(あづまひこ)、吾妻姫(あづまひめ)をしてこれを守護せしめ、ヒマラヤ山(さん)に銀色(ぎんしよく)の玉を鎮め、ヒマラヤ彦、ヒマラヤ姫をしてこれを守護せしめ、タコマ山(やま)に銅色(どうしよく)の玉を鎮め、国玉別(くにたまわけ)、国玉姫(くにたまひめ)をして、これを永遠に守護せしめたまひける。この十二の玉(たま)の守護神(しゆごじん)を称(しよう)して、八頭(やつがしら)の神(かみ)といふ。
 さて国治立命(くにはるたちのみこと)は十二の玉(たま)を鎮め、八頭(やつがしら)の国魂(くにたま)を任命し、つぎに八王(やつわう)の神(かみ)を配置したまひぬ。すなはち新高山(にひたかやま)には花森彦(はなもりひこ)をして主権を握らしめ、万寿山(まんじゆざん)には磐樟彦(いはくすひこ)、ローマには元照別(もとてるわけ)、モスコーには道貫彦(みちつらひこ)、ロツキー山(ざん)には貴治彦(たかはるひこ)、鬼城山(きじやうざん)には真鉄彦(まがねひこ)、長白山(ちやうはくざん)には有国彦(ありくにひこ)、コンロン山(ざん)には磐玉彦(いはたまひこ)、天山(てんざん)には斎代彦(ときよひこ)、青雲山(せいうんざん)には神澄彦(かむずみひこ)、ヒマラヤ山(さん)には高山彦(たかやまひこ)、タコマ山(ざん)には吾妻別(あづまわけ)の十二神将(じふにしんしやう)を配置して王となし、各主権を握らしめたまひぬ。これを八王(やつわう)の神(かみ)といふ。この八王八頭(やつわうやつがしら)の神司(かみがみ)は、もとより至善至美(しぜんしび)にして天則(てんそく)を厳守しゐたりしが、天地(てんち)の邪気より現(あら)はれいでたる八頭八尾(やつがしらやつを)の悪竜(あくりう)と金毛九尾(きんまうきうび)の悪狐(あくこ)と、六面八臂(ろくめんはつぴ)の悪鬼(あくき)の邪霊のために、月(つき)代(かは)り星(ほし)移るにしたがひ、漸次(ぜんじ)神(かみ)の国(くに)は穢(けが)され、つひには天則違反(てんそくゐはん)の行動をとるのやむを得ざるに立ちいたり、ここに世はますます混濁(こんだく)し、つひには国治立命(くにはるたちのみこと)御退隠(ごたいいん)のやむを得ざるに致(いた)らしめたる繁雑(はんざつ)なる経緯(いきさつ)は、章(しやう)をおうて略述(りやくじゆつ)することとすべし。

                           (大正一〇・一一・一三 旧一〇・一四 河津雄録)


        恥(はづ)かしく無(な)きまで心(こころ)洗(あら)へかし
             身魂(みたま)の審判(さばき)はじめかくれば


        何事(なにごと)がありとも世(よ)びと心(こころ)せよ
             罪(つみ)ある限り祓(はら)ひ清むる


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第一編 国魂の配置 <第一章 神々の任命 (101)>
2007/09/25(Tue)
第一篇 国魂の配置


<第一章 神々の任命> (一〇一)

 国治立命(くにはるたちのみこと)は、無限絶対の大神力(だいしんりき)を発揮し、まづ大地(だいち)を創造したまひぬ。この時清く軽きものは日月星辰(じつげつせいしん)となり、重く濁れるものは大地と別れたり。しかしてここに陰陽二神(いんやうにしん)の夫婦が生れたるが、男(をとこ)を天足彦(あだるひこ)といひ、婦(をんな)を胞場姫(えばひめ)といふ。
 しかるに物(もの)には表裏(へうり)あり、善悪(ぜんあく)あり、陰陽(いんやう)あり、火水(くわすい)ありて初めて万物(ばんぶつ)を形成(けいせい)さるるは自然の理法(りはふ)なり。このとき宇宙間に存在(そんざい)する邪鬼(じやき)凝(こ)つて妖魅(えうみ)を現出(げんしゆつ)し、霊主体従(ひのもと)の神木(しんぼく)に、体主霊従(ちゑ)の果実(このみ)を結ぶにいたりけり。ここに神は、
 『この果実(このみ)を喰(く)ふべからず』
と女神(によしん)に命じたまひしを、女神(によしん)は神命(しんめい)を奉ぜず、みづから採(と)つてこれを食(しよく)し、つぎに夫神(をつとがみ)にまでもすすめ食(く)はしめたりける。これより地上の世界は体主霊従(たいしゆれいじゆう)にかたむき、種々(しゆじゆ)の罪悪は漸次(ぜんじ)発生し、邪悪(じやあく)の気(き)凝(こ)つて八頭八尾(やつがしらやつを)の悪竜(あくりう)となり、金毛九尾(きんまうきうび)の悪狐(あくこ)となり、六面八臂(ろくめんはつぴ)の邪神(じやしん)、妖気(えうき)の霊怪(れいくわい)天地(てんち)のあひだに発生するにいたりける。これより天地(てんち)の間(あひだ)には、罪悪さかんに行(おこな)はれ、天地(てんち)混沌(こんとん)として紛乱(ふんらん)に紛乱をかさね、世は常闇(とこやみ)となり、ほとンど拾収(しふしう)すべからざる状態となりにける。
 ここに国治立命(くにはるたちのみこと)は、豊国姫命(とよくにひめのみこと)を補佐神(ほさがみ)とし、八百万(やほよろづ)の神とともに、千辛万苦(せんしんばんく)をなめたまひ、つひに天道別命(あまぢわけのみこと)《モウゼ》とともに天地(てんち)の律法を制定せられたり。その律法には前巻に述べたるごとく、内面的には、
   省(かへり)みる
   恥(はづ)る
   悔(く)ゆる
   畏(おそ)る
   覚(さと)る
の五ケ条であり、外面的には、
   第一、 夫婦(ふうふ)の道を厳守し、一夫一婦(いつぷいつぷ)たるべき事
   第二、 神を敬(うやま)ひ、長上(ちやうじやう)を尊(たふと)み、博(ひろ)く万物(ばんぶつ)を愛する事
   第三、 互(たがひ)に嫉(ねた)み、謗(そし)り、詐(いつは)り、殺す、などの悪事を為(な)すべからざる事
 右の大要(たいえう)を示され、その他百般(ひやくぱん)の事物(じぶつ)について、細密(さいみつ)なる律法が設けられたりける。ここにおいて、まづこれを地上におこなひ、天上(てんじやう)にもこれを行はむとし、三体(さんたい)の大神(おほかみ)に認許を受け、これを天地に施行(しかう)さるることとはなりける。
 ここに三体(さんたい)の大神(おほかみ)、国治立命(くにはるたちのみこと)は天地合体(てんちがつたい)して世を治むべく、天地間を往来(わうらい)して、神命(しんめい)の戒律を天上地上に宣布(せんぷ)すべく、管掌(くわんしやう)の神を定めたまひけり。
 さて国治立命(くにはるたちのみこと)は、天上の三体の神の命(めい)により、太陽界(たいやうかい)に使神(ししん)となり、日天使(につてんし) 国治立命(くにはるたちのみこと)と称(しやう)され、豊国姫命(とよくにひめのみこと)は月天使(ぐわつてんし) 国大立命(くにひろたちのみこと)と名づけられ、日天使(につてんし)の神業(しんげふ)を国直姫命(くになほひめのみこと)に、月天使(ぐわつてんし)の神業を豊国姫命(とよくにひめのみこと)に委任され、天道別の命(あまぢわけのみこと)は現界(げんかい)の諸神(しよしん)に律法を宣伝する聖職とならせたまひたり。神は天地の律法を天上地上にあまねく拡充(くわくじゆう)すべく、十六柱(じふろくはしら)の神司(かみ)を霊主体従(ひのもと)の天使として、重く任命せられたり。十六天使の名は、大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)、言霊別命(ことたまわけのみこと)、神国別命(かみくにわけのみこと)、大足彦(おほだるひこ)、花森彦(はなもりひこ)、磐樟彦(いはくすひこ)、元照別(もとてるわけ)、道貫彦(みちつらひこ)、貴治彦(たかはるひこ)、有国彦(ありくにひこ)、真鉄彦(まがねひこ)、磐玉彦(いはたまひこ)、斎代彦(ときよひこ)、吾妻別(あづまわけ)、神澄彦(かむずみひこ)、高山彦(たかやまひこ)にして大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)は天使の長(ちやう)となり、十六天使を指揮さるることとなりにけり。
 以上の十六天使は、天上地上を往復し、天地の律法を宇宙間に宣伝したまひ、一時(いちじ)は天地ともに太平(たいへい)に治(をさ)まり、大神(おほかみ)の理想の世は完全に樹立(じゆりつ)されたりしが、たちまち地の各所(かくしよ)より、邪神(じやしん)勃興(ぼつこう)して世はふたたび混乱の巷(ちまた)と悪化せむとぞしたりける。
 ここに国治立命(くにはるたちのみこと)は、シオン山(ざん)に鎮祭(ちんさい)せる十二個の玉を大地の各所に配置し、これを国魂(くにたま)の神(かみ)となし、八頭神(やつがしらがみ)を任命さるることとなりたり。

                          (大正一〇・一一・一三 旧一〇・一四 栗原七蔵録)


        真寸鏡(ますかがみ)見むと思へば外国(とつくに)の
             醜(しこ)の教(をしへ)の塵(ちり)をはらへよ



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第三巻 霊主体従 寅の巻  <総 説>
2007/09/24(Mon)
総   説


 天地剖判(てんちぼうはん)して大地(だいち)、日(ひ)、月(つき)、星辰(せいしん)現(あら)はれ、地上には樹草(じゆさう)、人類、獣(けだもの)、鳥(とり)、魚(うを)、虫(むし)を発生せしめ、各自分掌(かくじぶんしやう)の神(かみ)を定めてこれを守護せしめたまひける。
 大神(おほかみ)は人体(じんたい)の元祖神(ぐわんそしん)として天足彦(あだるひこ)、胞場姫(えばひめ)を生みたまひ、天の益人(あめのますひと)の種(たね)と成(な)したまひたり。しかるに天足彦(あだるひこ)は胞場姫(えばひめ)のために神勅(しんちよく)にそむきて霊主体従(れいしゆたいじゆう)の本義(ほんぎ)を忘れ、つひに体主霊従(ちゑ)の果実(このみ)を食(しよく)し、霊性たちまち悪化して子孫(しそん)に悪念(あくねん)を遺(のこ)したるのみならず、邪念(じやねん)はおのづから凝(こ)つて八頭八尾(やつがしらやつを)の大蛇(をろち)と変(へん)じ、あるひは金毛九尾(きんまうきうび)の悪狐(あくこ)と化(くわ)し、六面八臂(ろくめんはつぴ)の魔鬼(まき)となり、世界を混乱紛擾(こんらんふんぜう)せしめ、国治立大神(くにはるたちのおほかみ)、国直姫命(くになほひめのみこと)、大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)以下の諸神(しよしん)を根の国(ねのくに)に隠退(いんたい)せしめ、盤古大神(ばんこだいじん)《塩長彦(しほながひこ)》を奉じて国治立大神(くにはるたちのおほかみ)の聖職に代(かは)らしめ、塩長姫(しほながひめ)をして国直姫命(くになほひめのみこと)の職をおそはしめ、八王大神(やつわうだいじん)《常世彦(とこよひこ)》をして大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)の職を司(つかさど)らしめ、常世姫(とこよひめ)をして豊国姫命(とよくにひめのみこと)にかはらしめ、和光同塵的(わくわうどうぢんてき)神策(しんさく)を布(し)き、一時(いちじ)を糊塗(こと)して、大国彦(おほくにひこ)と結託(けつたく)し、世界を物質主義に悪化し、優勝劣敗(いうしやうれつぱい)、弱肉強食の端(たん)を開(ひら)き、つひには収拾(しうしふ)すべからざる悪逆無道(あくぎやくむだう)の暗黒界(あんこくかい)と化(くわ)せしめ、その惨状(さんじやう)目もあてられぬ光景となりたれば、天の三体(てんのさんたい)の大神(おほかみ)も坐視(ざし)するに忍(しの)びず、ここに末法濁世(まつぱふぢよくせ)の代(よ)を短縮して再び国治立命(くにはるたちのみこと)の出現を命(めい)じたまひ、完全無欠の理想の神世(かみよ)の出現せむとする次第を略述(りやくじゆつ)せるものなれども、製本上の都合により本巻は、国大立命(くにひろたちのみこと)および金勝要神(きんかつかねのかみ)、大将軍(たいしやうぐん)沢田彦命(さはだひこのみこと)の隠退さるるまでの霊界の消息を伝ふることとせり。ゆゑにこの霊界物語は、あたかも大海(たいかい)の一滴(いつてき)、九牛(きうぎう)の一毛(いちまう)にもおよばず、無限絶対、無始無終の霊界の一部の物語なれば、これをもつて霊界の全況(ぜんきやう)となすは誤(あやま)りなり。願(ねが)はくはこの書(しよ)をもつて霊界一部の消息を探知し、霊主体従の身魂(みたま)に立ちかへり、世界万国(せかいばんこく)のために弥勒(みろく)の神業(しんげふ)に奉仕されむことを懇望(こんまう)する次第なり。数千年間の歴史上の事実のみ研究さるる現代の人士(じんし)は、この物語を読みて或(あるひ)は怪乱狂妄(くわいらんきやうばう)取るにたらざる痴人(ちじん)の夢物語と嘲笑(てうせう)し、牽強附会(けんきやうふくわい)の言(げん)となさむは、むしろ当然の理(り)といふべし。神諭に曰(いは)く、
 『世(よ)の元(もと)の誠(まこと)の生神(いきがみ)が、時節(じせつ)きたりてこの世に現(あら)はれ、因縁ある身魂(みたま)にうつりて太古(むかし)から言(い)ひおきにも、書きおきにもなきことを、筆(ふで)と口(くち)とで世界へ知らすのであるから、世界の人民が疑(うたが)ふて真実(まこと)にいたさぬのは、もつとものことであるぞよ云云(うんぬん)』
と示されあり。また、
 『この神の申すことは、因縁の身魂(みたま)でないと、到底(たうてい)腹(はら)へは這入(はい)らぬぞよ』
と示されあり。ゆゑに神縁(しんえん)深き人士(じんし)にあらざれば、断じて信じ難(がた)からむ。
 要(えう)は、単に一片(いつぺん)の小説と見なしたまふも不可なく、また痴人(ちじん)の夢物語として読まるるも可(か)なり。ただ天地(てんち)の大神(おほかみ)たちの天地修理固成の容易ならざる御艱難(ごかんなん)と御苦心の経路を拝察したてまつり、かつ洪大無辺(こうだいむへん)の神恩(しんおん)に報ひたてまつり、人生の本分を全(まつた)ふし得(う)る人士の一人(いちにん)にても出現するにいたらば、口述者にとりて、望外(ばうぐわい)の欣幸(きんかう)とするところなり。惟神霊幸倍坐世(かむながらたまちはへませ)

   大正十一年一月                 王  仁  識




        愛善(あいぜん)の花咲き充(み)つる神の代は
             人の心も華やかなるらむ

        我国(わがくに)は徳主法従(とくしゆはふじゆう)神国(みくに)なれば
             理屈ばかりで治まらぬ国

        大日本(おほやまと)の国(くに)は更(さら)なり地の上の
             凡(すべ)てに道を明かす斯道(このみち)


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凡  例
2007/09/23(Sun)
− 凡  例 −


一、本巻はその前半を亀岡の瑞祥閣(ずゐしやうかく)において口述筆録せしめられ、後半は綾部竜宮館(あやべりうぐうやかた)において完成されたものであります。恒定筆録者(かうていひつろくしや)の内(うち)、谷口正治(たにぐちまさはる)氏が第二巻完了とともに、出口教祖詳伝(しやうでん)編集の任(にん)にあたることとなり、霊界物語に関係せざるにいたりましたことを、筆録者一同遺憾(ゐかん)に思ひますとともに、前巻まだ筆録されし労(らう)を多謝(たしや)する次第であります。
一、第一巻に国治立命(くにはるたちのみこと)、盤古大神(ばんこだいじん)、大自在天(だいじざいてん)の各派が、三つ巴(みつどもゑ)となつて悪戦苦闘をつづけ、神界を混乱せしめたる記録を読み、盤古大神および大自在天につきその真相を識(し)らむとする人々のために、ちよつと説明を加へておきたいと思ひます。
  盤古大神とか、盤古神王(ばんこしんわう)とか、また盤古真王(ばんこしんわう)といふのは、平田篤胤翁(ひらたあつたねをう)の赤県太古伝成文(もろこしたいこでんせいぶん)といふ著書の、盤古真王記(ばんこしんわうき)に、
  『古昔(こせき)天地(てんち)未(いま)だ分(わか)れず、渾沌(こんとん)として鶏子(けいし)の如(ごと)し。盤古氏其の中(そのなか)に生(しやう)ず。九万八千歳にして天地開闢(てんちかいびやく)せり。清軽(せいけい)のものは上(あが)つて天(てん)となり、濁重(だくぢう)のものは下(くだ)つて地(ち)となる。盤古(ばんこ)其の中(そのなか)に在(あ)り。一日(いちにち)に九変(きうへん)して、天に於(おい)ては神に、地に於ては聖(せい)なり。天(てん) 日(ひ)に高きこと一丈(いちぢやう)、地(ち) 日(ひ)に厚きこと一丈、盤古(ばんこ) 日(ひ)に長(ちやう)ずること一丈、此(かく)の如きこと九万八千歳、天(てん)極(きは)めて高く、地(ち)極めて邃(ふか)く、盤古極めて長(ちやう)ぜり。数(すう)は一(いち)に起(おこ)りて三(さん)に立ち、五(ご)に於(おい)て成(な)り、七(なな)に於て盛(さか)りに、九(く)に於て処(しよ)す。
 盤古氏夫妻は陰陽(いんやう)の始めなり。大荒(たいくわう)に生じて其(そ)の初めを知ること莫(な)し。蓋(けだ)し陶鎔(たうよう)造化(ざうくわ)の主(しゆ)にして、天地万物(てんちばんぶつ)の祖(そ)なり。乃(すなは)ち元始天王(げんしてんわう)、大元聖母(だいげんせいぼ)は是(こ)れなり。盤古氏の後(のち)に三皇(さんくわう)あり、これ天地人(てんちじん)の始めなり』
とあるごとく、支那(しな)の人民が天王聖母(てんわうせいぼ)として尊崇(そんすう)するところのものが盤古大神(ばんこだいじん)であります。
 さうして盤古大神は体主霊従(たいしゆれいじゆう)《われよし》で、国常立命(くにとこたちのみこと)は霊主体従(れいしゆたいじゆう)《ひのもと》であります。しかし本書には神名(しんめい)を国治立命(くにはるたちのみこと)と申し上げてあります。
 つぎに大自在天(だいじざいてん)は、力主体霊(りよくしゆたいれい)《つよいものがち》であつて、仏典によりますと波羅門教徒(ばらもんけうと)は、この神は世界万物(せかいばんぶつ)の造物主(ざうぶつしゆ)であり、また世界の本体(ほんたい)であり、この神の支配のままに吾人(ごじん)苦楽(くらく)の果報(くわはう)が割り当(あて)らるるのであるといつて、あらむ限りの崇拝(すうはい)の的(まと)としてをるのであります。ところが仏教が起(おこ)つてから後(のち)といふものは、大自在天神(だいじざいてんじん)と命名されて、やうやく第六天(だいろくてん)の統治者(とうぢしや)として、きはめて平凡な取扱(とりあつか)ひを受くるものとなつたのです。
一、次に常世の国(とこよのくに)について一言(いちごん)しておきます。「稽古要略(けいこえうりやく)」といふ書物に、
 『少彦名神(すくなひこなのかみ)、粟茎(あはくき)《方船(はこふね)のこと》に乗りて、常世の国に渡りき。按(あん)ずるに常世の国とは本神仙(もとしんせん)の幽境(いうきやう)をいふ。因(よ)つて以(もつ)て海外の絶域(ぜつゐき)、人(ひと)到(いた)り易(やす)からざる地(ち)を称(しよう)す』
とありますから、日本(にほん)からいへば海外の絶域たる亜米利加(アメリカ)は常世の国となりますが、亜米利加からいへば日本が常世の国となるわけであります。ゆゑに霊界物語と古文書(こぶんしよ)と比較研究して見ることが肝要(かんえう)だと思ひます。

     大正十一年一月廿九日       竜宮館に於て 識す




     霊交活力体因出燃地成弥凝足(ひとふたみよいつむゆななやここのたり)
          諸血夜出(ももちよろづ)の神(かみ)の功績(いさをし)

     隠身而(すみきりて)形(かたち)も見えず声もなき
          まことの神は御中主(みなかぬし)なり

     神の元(もと)人の初まりつばらかに
          知りたる者は神の外(ほか)無し



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