霊界物語 目次 <第二巻 丑の巻>
2007/07/29(Sun)
霊 界 物 語  <第二巻  霊主体従 丑の巻



総説

<第 一 篇  神界の混乱>
第一章     攻防両軍の配置
第二章     邪神の再来
第三章     美山彦命の出現
第四章     真澄の神鏡
第五章     黒死病の由来
第六章     モーゼとエリヤ
第七章     天地の合せ鏡
第八章     嫉視反目

<第 二 篇  善悪正邪>
第九章     タコマ山の祭典 その一
第一〇章    タコマ山の祭典 その二
第一一章    狸の土舟
第一二章    醜女の活躍
第一三章    蜂の室屋

<第 三 篇   神戦の経過>
第一四章    水星の精
第一五章    山幸
第一六章    梟の宵企み
第一七章    佐賀姫の義死
第一八章    反問苦肉の策
第一九章    夢の跡

<第 四 篇  常世の闇>
第二〇章    疑問の艶書
第二一章    常世の国へ
第二二章    言霊別命の奇策
第二三章    竜世姫の奇智
第二四章    藻脱けの殻
第二五章    蒲団の隧道
第二六章    信天翁
第二七章    湖上の木乃伊

<第 五 篇  神の慈愛>
第二八章    高白山の戦闘
第二九章    乙女の天使
第三〇章    十曜の神旗
第三一章    手痛き握手
第三二章    言霊別命の帰城
第三三章    焼野の雉子
第三四章    義神の参加
第三五章    南高山の神宝
第三六章    高白山上の悲劇
第三七章    長高山の悲劇
第三八章    歓天喜地

<第 六 篇  神霊の祭祀>
第三九章    太白星の玉
第四〇章    山上の神示
第四一章    十六社の祭典
第四二章    甲冑の起源
第四三章    濡衣
第四四章    魔風恋風

<第 七 篇  天地の大道>
第四五章    天地の律法
第四六章    天則違反
第四七章    天使の降臨
第四八章    律法の審議
第四九章    猫の眼の玉
第五〇章    鋼鉄の鉾




・口述日    大正一〇年一〇月二六日 〜 一一月九日
・口述場所   綾部並松 松雲閣




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第七篇 天地の大道 <第五〇章 鋼鉄の鉾 (一〇〇)>
2007/07/28(Sat)
第七篇 天地の大道


<第五〇章 鋼鉄(まがね)の鉾(ほこ) (一〇〇)>

 神国別命(かみくにわけのみこと)、神国彦(かみくにひこ)以下の神司(かみがみ)は、八王大神(やつわうだいじん)の変心(へんしん)せしことは夢にも知らず、数多(あまた)の神司(かみがみ)に囲繞(ゐげふ)されながら、諄々(じゆんじゆん)として国治立命(くにはるたちのみこと)の教示(けうじ)を説(と)き示しつつあつた。
 折しもにはかに城内は騒々(さうざう)しく数多(あまた)の足音は近く迫つてきた。室内の戸を開(ひら)くやいなや、八王大神は以前にかはる暴悪(ばうあく)なる顔色(がんしよく)をなし、大刀(だいたう)の柄(つか)に手をかけ、神肉別命の前に詰めより、
 『汝(なんぢ)はすみやかに盤古大神(ばんこだいじん)に帰順(きじゆん)せよ。混乱紛糾(こんらんふんきふ)をきはめたる現下(げんか)の世界の情勢は、汝らの主神(しゆしん)国治立命の唱(とな)ふるごとき、迂遠(うゑん)きはまる教(をしへ)をもつて、いかでか天下を至治太平(しちたいへい)ならしむることを得む。汝らの唱ふる経綸策(けいりんさく)は、天下泰平(てんかたいへい)に治まれる世にたいしての遊戯的神策(ゆうぎてきしんさく)にして、言ふべくして行(おこな)ふべからざる迂愚(うぐ)の策なり。汝すみやかにその非を悟り常世城の従臣となるか、ただしは兜(かぶと)をぬいで降伏(かうふく)するか、二つとも否認するにおいては、気の毒ながら汝らを門出(かどで)の血祭り、一刀両断(いつたうりやうだん)の処置を執(と)らむ』
と打つて変つた狂態(きやうたい)を演ずるのである。
 神国別命は、じゆんじゆんとしてその非を説き、天下は圧力武力をもつて到底治(をさ)むべからざるの神理(しんり)を、言葉をつくして弁明した。されど貪(どん)、瞋(しん)、痴(ち)の三毒(さんどく)をふくめる悪神(あくがみ)の主将(しゆしやう)八王大神には、あたかも馬耳東風(ばじとうふう)のごとく、もはや毫末(がうまつ)の効果もなかつた。
 八王大神は立ちあがり、
 『いらざる繰言(くりごと)耳を汚(けが)すも面倒なり』
と真向(まつかう)上段(じやうだん)に斬(き)つてかかつた。神国別命以下は身に寸鉄(すんてつ)を帯びず、ただ一心(いつしん)に神明(しんめい)を祈るよりほかに道はなかつた。神国別命は天に向つて合掌し、神言(かみごと)を奏上せむとするや、八王大神は一刀を頭上高く振りかざしたるままどつと仰向(あふむけ)に倒れた。この光景を目撃したる常世城の神司(かみがみ)は、右往左往に周章(あわて)ふためき、急ぎ常世姫(とこよひめ)にこの実状(じつじやう)を報告した。常世姫は直(ただ)ちに鉄棒(てつぼう)の火に白熱化(はくねつくわ)したるを提(ひつさ)げ来(きた)り、あはや神国別命は、焼鉄(せうてつ)に打たれすでに焼き滅ぼされむとするをりしも、東北(とうほく)の空より俄然(がぜん)暴風吹ききたり、常世姫は暴風にあふられて、たちまち地上に転倒した。城内の神司(かみがみ)もまた一度にどつと吹き倒された。神国別命は神国彦以下の神司(かみ)とともに、からうじてその場を逃れ、やうやくにして竜宮城に帰還し、高尾別(たかをわけ)の変心し、かつ何時(いつ)魔軍を引率してここに攻め来(きた)るやもはかられざることを、国直姫命(くになほひめのみこと)に奏上した。
 ここに地の高天原(ちのたかあまはら)においては、国直姫命、大八洲彦命(おほやしまひこのみこと)、言霊別命(ことたまわけのみこと)以下の神将(しんしやう)竜宮城に会(くわい)し、八王大神の反逆にたいし防戦の議(ぎ)をこらした。このとき国直姫命は、
 『いかなる暴悪無道(ばうあくぶだう)の強敵(きやうてき)たりとも、神明(しんめい)の力(ちから)を信じ、天地の律法を遵守(じゆんしゆ)し、悪(あく)にたいするに至善(しぜん)をもつてせよ』
との命令を発せられた。神司(かみがみ)は神国別命の詳細なる報告に接し、切歯扼腕悲憤(せつしやくわんひふん)の涙を、顋辺(しへん)にただよはしながら、天地の律法に違反すべからず、あくまで柔和と懇切と信義をもつてこれに対抗せむと、協議一決した。
 時しも百雷(ひやくらい)の一時(いちじ)に轟(とどろ)くごとき音響とともに黒雲(こくうん)に乗(じやう)じ、西南(せいなん)の天をかすめて入来(いりきた)る数多(あまた)の鳥船(とりふね)がある。彼らは黄金橋(こがねばし)のかたはらに落下し、獅子奮迅(ししふんじん)の勢(いきほひ)をもつてヨルダン河を押しわたり、竜宮城に押しよせ門扉(もんぴ)を打破(うちやぶ)り、暴虎馮河(ばうこひようが)の勢をもつて城内に侵入し、国治立命に面会せむと、大音声(だいおんじやう)に呼ばはつた。
 鬼雲彦(おにくもひこ)、清熊(きよくま)を先頭に八王大神その他の魔神(ましん)が、雲霞(うんか)のごとく押し寄せた。城内はにはかに騒ぎたつた。大八洲彦命は周章(あわて)ふためく神司(かみがみ)を制(せし)しとどめ、みづから出(い)でて八王大神に面会し、来意(らいい)を厳(おごそ)かに訊問(じんもん)した。
 八王大神は傍若無神(ばうじやくぶじん)の態度にて、諸神将(しよしんしやう)を眼下(がんか)に睨(ね)めつけ、
 『汝らのごとき‘やくざ’神(がみ)にいふべき言葉なし。すみやかに国治立命に見参(けんざん)せむ』
と仁王立(にわうだち)になつて怒号(どがう)した。国治立命はこの声を聞くより、たちまち悠然(いうぜん)としてその場に出現したまうた。八王大神は声をふるはしながら、
 『われは盤古大神(ばんこだいじん)大自在天(だいじざいてん)の大命(たいめい)を伝へむために出場せり。汝はみづから国治立命と称(しやう)すれども、まつたくの偽神(ぎしん)なり。国治立命とは国土を永遠に立て守るべき神明なり。かかる天下混乱の際、下(くだ)らぬ迂遠(うゑん)なる教(をしへ)をもつて、難(かた)きを避け安きにつかむとするは心得(こころえ)がたし。汝は唱ふる天地の律法とはそもそも何(なん)ぞ。陳腐固陋(ちんぷころう)の世迷言(よまひごと)にして唾棄(だき)すべき教理なり。すみやかにこの律法を破壊し、汝はこれより根の国(ねのくに)底の国(そこのくに)に、一時(いちじ)も早く退却せよ。真(まこと)の国治立命は、大自在天の権威ある神策(しんさく)によつて、初めて顕現(けんげん)せむ。返答いかに』
と詰めよつた。
 八王大神の従臣、鬼雲彦は尻馬(しりうま)に乗り、
 『汝(なんぢ)国治立命と称する偽神(ぎしん)よ。八王大神の教示を遵奉(じゆんぽう)せずして、万一違背(ゐはい)に及ばば、われは竜宮城の諸竜神を寸断し、地の高天原の神司(かみがみ)を一柱(ひとはしら)も残らず、刀の錆(さび)となし、屍(しかばね)の山を築き、竜宮海(りうぐうかい)を地の海と化(くわ)せしめむ。返答いかに』
と詰(つめ)よつた。国治立命以下の諸神司(しよしん)は、天地の律法をみづから破るに忍びず、いかなる悪言暴語(あくげんばうご)にも怒りをしづめ、博(ひろ)く万物(ばんぶつ)を愛するの律法を遵守し、柔和の態度をもつてこれに向はせ給ふた。
 されど八王大神は何の容赦もなく、つひに一刀を抜きはなち、今や狼藉(らうぜき)におよばむとするとき、衆神(しゆうしん)の中より突然現はれたる花森彦(はなもりひこ)は、
 『われはただ今(いま)戒律を破らむ』
と言ひもはてず、一刀を抜きはなち鬼雲彦の背部に斬りつけた。なほも進んで八王大神に斬つてかかるを、大足彦(おほだるひこ)は、「しばらく待て」とこれを制止した。
 大足彦の一言(いちごん)に花森彦も刀ををさめ、元の座に復(ふく)し、唇をふるはせ、心臓をはげしく鼓動させ、顔色(がんしよく)蒼白(さうはく)となつてひかへてゐた。八王大神はこの勢(いきほひ)にのまれて、やや躊躇(ちうちよ)の色(いろ)が見えた。鬼雲彦は背部(はいぶ)の負傷にその場に打倒(うちたふ)れ、哀(あはれ)みを乞ふた。
 ここに大足彦は、国の真澄(ますみ)の鏡を取出(とりいだ)し、八王大神以下の魔軍を射照(いてら)した。たちまち正体をあらはし、悪竜(あくりゆう)、悪鬼(あくき)、悪狐(あくこ)の姿と変(へん)じ、自在の通力(つうりき)をうしなひ、身動きも自由ならず一斉(いつせい)に救ひを乞ふた。
 この時ふたたび国治立命あらはれ給ひ、
 『地の高天原は天地の律法を遵守する、正しき神の神集(かむつど)ひに集ふ聖地である。また広く万物を愛し、禽獣虫魚(きんじうちうぎよ)にいたるまで殺さざるをもつて主旨(しゆし)とす。ゆゑに今回にかぎり汝らの罪を赦(ゆる)し、生命(せいめい)を救ひ、常世城に帰城せしむべし。汝らは一時(いちじ)も早く帰城し、常世姫をはじめ他(た)の神司(かみがみ)にわが旨(むね)を伝へよ。暴(ばう)に報いるに暴をもつてせば、何時(いつ)の日か世界は治平(ちへい)ならむ。憎み憎まれ、恨み恨まれ、殺し殺され、誹(そし)り誹られ、世は永遠に暗黒の域(ゐき)を脱(だつ)せざるべし。常世姫にして、わが教(をしへ)を拒まば是非なし。常世城をすみやかに明け渡し、根の国、底の国に、汝ら先(ま)づ退却せよ。しからざればやむを得ず、律法を破り、決死の神司(かみがみ)をして、常世城を屠(はふ)らしめむ』
との厳格なる神示であつた。
 ここに八王大神は、その意を諒(りやう)し、厚く感謝して部下の魔神(ましん)とともに、神国彦に送られ常世城に立帰(たちかへ)り、国治立命の神示を常世姫に伝へた。常世姫は聞くより打笑(うちわら)ひ、鼻先(はなさき)に扱ひつつあくまで国治立命に対抗し、大八洲彦命以下の神司(かみがみ)を滅ぼし、ふたたび竜宮城を占領せむと力(りき)みかへり、かつ八王大神の不甲斐(ふがひ)なきを慨歎(がいたん)した。
 八王大神は常世姫の大胆なる魔言(まげん)に動かされ、ふたたび反抗の旗を挙(あ)げむとし、魔神(まがみ)を集めて決議をこらす折(をり)しも、天上より鋼鉄(まがね)の鉾(ほこ)、棟(むね)をついて降(くだ)り、八王大神の側(そば)に侍(じ)する鬼雲彦の頭上に落ち、即死をとげたのである。これは自在天より神国彦に向(む)かつて投げたのが、あやまつて鬼雲彦に中(あた)つたのである。
 八王大神は驚いて奥殿(おくでん)に逃げ入(い)り、息をこらして鼠(ねずみ)のごとく、一隅(いちぐう)に身慄(みぶる)ひしつつ蹲踞(しやが)んでゐた。
 このとき、一天(いつてん)にはかに晴れ、天津日(あまつひ)の光り輝き渡るよと見えしとたん、身は高熊山(たかくまやま)の巌窟(がんくつ)に静坐(せいざ)してゐたのである。このとき巌上(がんじやう)に坐(ざ)せるわが足(あし)は、にはかに苦痛をうつたへ、寒気(かんき)は身を切るばかりであつた。

                 (大正一〇・一一・九 旧一〇・一〇 外山豊二録)

霊主体従 丑の巻 終り


道(みち)のため書き記(しる)したる
     教典(をしへぶみ)の千代万代(ちよよろづよ)に栄(さか)えとぞ思ふ

この道の光(ひかり)も知らぬ人草(ひとぐさ)は
     醜(しこ)の魔風(まかぜ)に靡(なび)き伏しつゝ


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第七篇 天地の大道 <第四九章 猫の眼の玉 (九九)>
2007/07/08(Sun)
第七篇 天地の大道


<第四九章 猫の眼(め)の玉(たま) (九九)>

 常世姫(とこよひめ)の雄猛(をたけ)びにより、世界の各地はほとんど戦乱の巷(ちまた)と化し、天に妖雲(えううん)みなぎり、地に濁流(だくりう)あふれ、猛獣悪蛇(まうじうあくじや)の咆吼(はうこう)する声、呑噬(どんぜい)の争ひはますます烈(はげ)しくなつてきた。
 盤古大神(ばんこだいじん)もその部下の八王大神(やつわうだいじん)もそらに策(さく)の施すところがなかつた。大自在天(だいじざいてん)はこの惨状を座視(ざし)するに忍びず、いかにもしてこれを平定(へいてい)せむと苦心した。八王大神は妻 常世姫の暴動を制するに能(あた)はず、最初は一小部分(いちせうぶぶん)の小火災(せうくわさい)くらゐにみなしてゐたが、火は意外に猛烈となり、全世界を焼尽(せうじん)せんず勢(いきほ)ひとなつた。八王大神は案(あん)に相違(さうゐ)し、その処置に困りはてたのである。ここにいよいよ前非(ぜんぴ)を悔い、善道(ぜんだう)をもつて世界を鎮定(ちんてい)するよりほかに策なきを自覚した。
 八王大神は常世城にあつて東北(とうほく)の天を仰ぎ見る折(をり)しも、一道(いちだう)の光明(くわうみやう)天に冲(ちう)するを見た。熟視すればその光明の中(うち)より、平和の女神(めがみ)の姿(すがた)幾柱(いくはしら)となく現はれ、琴や笛などの音楽を奏(そう)し、日の丸の扇(あふぎ)を手にもてる女神の舞ひ遊ぶ光景を眺めて、おほいに怪しみつつ盤古大神に奏上(そうじやう)しおき、ただちに風雲(ふううん)に乗(じやう)じ光明(くわうみやう)をたづねて進んだ。この光明は地の高天原(ちのたかあまはら)より現はれてゐた。
 八王大神はあまたの従臣とともに地の高天原に降(くだ)りついた。そして自ら高尾別(たかをわけ)と名乗り竜宮城の門戸(もんこ)をたたき、主神(しゆしん)に謁(えつ)を請(こ)ふたのである。若豊彦(わかとよひこ)は来意(らいい)をたづね、喜んでこれを言霊別命(ことたまわけのみこと)に通じた。言霊別命はただちに面会を許した。高尾別は慇懃(いんぎん)に礼をのべ、かつ世界の平和を来(きた)さむための神策(しんさく)を開示せられむことを乞(こ)ふのであつた。言霊別命は一見(いつけん)して、こは正しき神に非(あら)ざるべしと直ちに審神(さには)の室(しつ)へともなつた。たちまち正体露(あら)はれ大蛇(をろち)の姿と化(な)り、
 『われは実は八王大神なり』
と自白するのやむなきに立ち至(いた)つた。されど言霊別命は、「いかなる悪神(あくしん)にもせよ悔い改めなば善神(ぜんしん)なり。また天地の律法に照(てら)し敵を愛するは大神(おほかみ)の御心(みこころ)なり」として、心を許し、これを厚く導き諭(さと)し、
 『一時(いちじ)も早く天地の律法を守り、正道(せいだう)に立ちかへりなば天下は治平(ちへい)ならむ』
と懇々(こんこん)として説示(せつじ)されたのである。八王大神の高尾別は本心より改悛(かいしゆん)の情(じやう)を表(あら)はし、喜んで教(をしへ)をこふこととなつた。この神司(かみ)の教導(けうだう)には、神国別命(かみくにわけのみこと)これにあたることとなつた。高尾別に従ひ来(きた)れる神司(かみがみ)も、共に正道に帰順(きじゆん)し、いよいよ国治立命(くにはるたちのみこと)の神律(しんりつ)を奉じ、神業(しんげふ)に奉仕せむことを誓つた。神国別命はおほいに喜び、言霊別命を通じてこれを国治立命に進言したのである。
 大神(おほかみ)はまづ、
 『国直姫命(くになほひめのみこと)の裁断をえよ』
と厳命(げんめい)された。高尾別は恐(おそ)るおそる国直姫命の御前(みまへ)に出(い)で、所信(しよしん)を逐一(ちくいち)奏上した。
 国直姫命は、
 『いかに悪神(わるがみ)なりとて改心せば元の善神(ぜんしん)なり。高尾別をして竜宮城を総轄(そうかつ)せしめ、この神司(かみ)の力(ちから)によりて、常世姫を心底(しんてい)より改心せしむるに如(し)かず』
とし、言霊別命の上位につかしめ、神務(しんむ)に奉仕させられたのである。
 ここに高尾別は意気揚々(いきやうやう)として神国別命、神国彦(かみくにひこ)、照彦(てるひこ)とともに常世城に帰還し、まづ常世姫を悔い改めしめむとし、天の磐船(あまのいはふね)に乗りて常世の国へ帰つていつた。帰りみれば常世の国は目もあてられぬ常夜(とこよ)の暗(やみ)であつて、万(よろづ)の災(わざはひ)ことごとく起り、山河草木(さんかさうもく)色(いろ)を失ひ、実(じつ)に惨憺(さんたん)たる光景であつた。
 高尾別は神国別命以下の神司(かみがみ)を常世城に休息(きうそく)せしめ、自らは立つてただちに盤古大神の館(やかた)に参向(さんかう)し、天下治平(てんかちへい)の神策は国治立命の律法によるの外(ほか)なきを奏言(そうごん)した。盤古大神は何の答(いら)へもなく、ただ微笑をうかべて高尾別の進言を聞くのみであつた。高尾別は盤古大神が何の答辞(たふじ)も与へざるをもどかしがり、天下擾乱(てんかぜうらん)の場合かかる主将を戴き、事(こと)をなさむとするは吾(われ)のあやまちなり。むしろ国治立命を奉じて事をなさむと心を決し、大自在天の従神松山別(まつやまわけ)、小鹿彦(をしかひこ)は大いに怒(いか)り、
 『汝(なんぢ)は今まで盤古大神を奉戴(ほうたい)して諸神司(しよしん)を率ゐ、天下の経綸(けいりん)にたいして赤心(せきしん)をこめゐたりしに、国治立命の神示を聞き、たちまち猫眼(べうがん)のごとく心を変ずるはその意をえず。善悪正邪にかかはらず何ゆゑ初志を貫徹(くわんてつ)せざるや。思ふに国治立命は邪神(じやしん)ならめ。すみやかに汝は神国別命以下の神司(かみがみ)を捕虜(とりこ)にし、これを質(しち)となして盤古大神に帰順すべく厳(きび)しき交渉を開始せよ』
と大自在天を笠に虎の威(ゐ)をかる狐の厳命(げんめい)であつた。
 折(をり)しも常世姫その場に現はれ、口をきはめて高尾別の不明(ふめい)をなじり、かつ松山別の応援を求めた。松山別は常世姫の言(げん)を一(いち)も二(に)もなく採納(さいなふ)した。ここに高尾別の八王大神は進退これきはまり、折角(せつかく)の決心を翻(ひるがへ)し、ふたたび盤古大神を奉戴して、国治立命に反抗の態度をとることとなつた。

               (大正一〇・一一・九 旧一〇・一〇 桜井重雄録)


              時つ風(ときつかぜ)吹き荒(すさ)ぶとも眞木柱(まきばしら)
                   立てし初めの心ゆるめな


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第七篇 天地の大道 <第四八章 律法の審議 (九八)>
2007/07/01(Sun)
第七篇 天地の大道


<第四八章 律法の審議 (九八)>

 国治立命(くにはるたちのみこと)が、天道別命(あまぢわけのみこと)とともに天地の律法を制定され、その第一着手に、稚桜姫命(わかざくらひめのみこと)は律法の犠牲となり、幽界に降(くだ)りたまうた。それより竜宮城も、地の高天原(ちのたかあまはら)も、神司(かみがみ)の謹慎により、律法は厳粛に守られてゐた。
 さて一夫一婦(いっぷいっぷ)の制定により、花森彦(はなもりひこ)の身上(みのうへ)について一つの問題がおこつた。ここに言霊別命(ことたまわけのみこと)は、花森彦の孤独を憐(あわれ)み、相当の妻を選定し、夫婦(ふうふ)うちそろひ、神業(しんげふ)に参加せしめむことを提議した。神国別命(かみくにわけのみこと)以下の諸神将は、鳩首謀議(きうしゆぼうぎ)の結果、言霊別命の提議を理由なしとして、葬らむとした。その理由は、
 『天稚彦(あめのわかひこ)、稚桜姫命を堕落せしめたる原因は、花森彦である。肝腎の主神(しゆしん)は幽界に落ちたまひし後(のち)に、安閑(あんかん)として妻を娶(めと)り、雪隠(せつちん)にひそみて饅頭(まんぢゆう)くらひしごとく素知らぬ顔色(かほいろ)なしをるは、実(じつ)に無責任にして且(か)つ道義的罪悪である。平(ひら)たくいへば花森彦は、二柱(ふたはしら)とともに罪に殉(じゆん)じ、幽界にいたつてこれに奉仕すべきが、神司(かみ)たるものの当然の行動であらねばならぬ』
といふのであつた。城内の諸神将は満場一致、手を拍(う)つて神国別命の意見に賛成した。
 言霊別命は、
 『今回の事件の原動力は決して花森彦にあらず。奸侫邪智(かんねいじゃち)にたけたる常世姫(とこよひめ)が原動力である。ゆゑに花森彦の妻を禁ずるに先だち、まづ常世姫を改心せしめ、幽界に赴(おもむ)かしめよ』
と言葉を強めて主張した。かくして互ひに議論は果てなかつた。つひには真澄姫(ますみひめ)の裁断を乞ふこととなつた。真澄姫は、
 『花森彦の妻帯は、断じて許すべからず』
と裁決した。八百万(やほよろづ)の神司(かみがみ)は残らず、この説に賛成をした。
 ここに言霊別命は色(いろ)をなし、
 『天地(てんち)の律法は既往(きわう)に遡(さかのぼ)りてこれを罰すべきや』
と質問した。神司(かみがみ)は、
 『肉体上の既往はおろか、過去における霊魂の罪も今回の律法によりて罰すべきもの』
と主張したのである。言霊別命は、
 『然(しか)らばまづ第一に吾(われ)を罪(つみ)せよ。吾(われ)は言霊姫の夫(をつと)となるまでに、数回妻を替へたり。過去の霊魂の罪は確知(かくち)せずといへども、肉体上における律法違反は、確乎(かくこ)たる証拠あり』
といひはなち、かついふ。
 『諸神司(しよしん)にして果(はた)してこの律法に触れざるもの幾柱(いくはしら)かある』
と大声叱呼(たいせいしつこ)された。いづれの神司(かみがみ)も今まで自分の罪を棚にあげ、素知らぬ顔に隠してゐたのを素(す)っ破(ぱ)ぬかれ、猿猴(ゑんこう)の樹上(じゆじやう)よりたたき落されしごとき心持(こころも)ちとなり、いづれもアフンとして沈黙におちてしまつた。いづれの神司(かみ)もここにいたつて開(あ)いた口がすぼまらず、誰(たれ)もかれも雪隠(せつちん)で饅頭(まんぢゆう)食ふた系統(ひつぱう)の神司(かみ)ばかりであつた。
 神司(かみがみ)らは言霊別命の事理明白(じりめいはく)なる一言(いちごん)に胆(きも)をぬかれ、石亀(いしかめ)が横槌(よこづち)の柄(え)の上に甲(かう)をのせられ、首を延ばしてもがきつつ進退きはまりし体裁(ていさい)にて、手も足もつけやうがなかつた。
 言霊別命は、
 『諸神司(しよしん)の意見にして果して正当ならば、吾(われ)には大(だい)なる決心あり。吾(われ)まづ、天則違反の罪神(ざいしん)として裁断をうけ、幽界に下(くだ)らむ。諸神司(しよしん)はいづれも清廉潔白(せいれんけつぱく)の神司(かみ)にましませば、決して幽界に降(くだ)されたまふごとき案(あん)じは毛頭(まうとう)なかるべし。さらばこれより国治立命(くにはるたちのみこと)の御前(みまへ)に出(い)で吾(わ)が罪を自白し、その処置を甘受(かんじゆ)せむ』
と立ちあがらむとするを、諸神司(しよしん)はあわててこれを引きとめ、
 『短気は損気(そんき)、しばらく待たれよ』
と大手(おほて)をひろげて命(みこと)の前に立ちふさがるのであつた。言霊別命はをかしさにたへず、思はず失笑せむとしたが、にはかに律法の精神を思ひだし、無理にこれをおさへた。
 そのとき真鉄彦(まがねひこ)走りいで、
 『蓋(ふた)をあくれば何(いづ)れの神司(かみがみ)も同様ならむ。同じ穴の狐、同僚の情誼(じやうぎ)をもつて、まづ思ひとどまりたまへ』
と諫止(かんし)した。言霊別命は、
 『天地の律法に依古(えこ)なし。吾(われ)は過去の罪によつて裁断を受けむ。止(とど)めたまふな』
と袖振りきつて行かむとす。をりしも安世彦(やすよひこ)は口をひらいて、
 『まづこの場はこれにて静まりたまへ。敵(かたき)の末(すゑ)は根を絶(た)つて葉を枯らす。まづ第一に常世姫(とこよひめ)を亡ぼし禍根(くわこん)を絶つに如(し)かず』
とこともなげにいつた。言霊別命は、
 『亡ぼすとは殺すといふことならむ。殺すといふ行為は天地の律法に違反せずや』
と一本(いつぽん)参(まゐ)つた。安世彦は頭(あたま)をかき、
 『これは失言いたしました』
と引きさがる。この光景を見たるあまたの神司(かみがみ)は、あたかも蜴(とかげ)のあくびしたやうな顔色(おももち)にて、口を開(ひら)きアフンとしてゐたのである。
 をりしも天上より一道(いちだう)の光明(くわうみやう)赫灼(かくしやく)として、衆神司(しうしん)のまへに強く放射するよと見るまに、麗しき威厳そなはれる女神(めがみ)降(くだ)りきたり、中央にしとやかに端坐(たんざ)せられた。この神は国直姫命(くになほひめのみこと)である。国直姫命は神司(かみがみ)にむかひ、ただいま国治立命(くにはるたちのみこと)天上にのぼり、律法の解釈につき、天津神(あまつかみ)とともに御詮議(ごせんぎ)ありし結果、
 『律法制定前(ぜん)の罪は今回かぎり問はざるべし。今後の世界における総(すべ)ての罪悪は厳重に処罰し、霊魂上の罪も償却(しやうきやく)するまでは永遠に罪(つみ)さるるべし』
との御決定なりと言葉おごそかに宣示(せんじ)せられた。そして国直姫命は、稚桜姫命(わかざくらひめのみこと)の天職をおそひ、竜宮城にとどまり地の高天原(ちのたかあまはら)を治めたまふこととなつた。かくて花森彦(はなもりひこ)は国栄姫(くにさかひめ)一名(いちめい)花森姫(はなもりひめ)との結婚を許さるることとなつた。

                (大正一〇・一一・九 旧一〇・一〇 加藤明子録)


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